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2004年3月19日
厚生労働省障害保険福祉部精神保健福祉課 御中


「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」第三条第二項に規定する
医師の診断書の記載事項を定める省令に関する意見募集について

性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会

 厚生労働省におかれましては、日頃より国民生活向上のためご尽力いただき感謝申し上げます。
私たち「性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会」は、性同一性障害をかかえる者およびその支援者で主に構成されるNPO団体です。
当会では、昨年9月19日に坂口厚生労働大臣とも面会し、当事者の声を直接聞いていただきました。

 さて、パブリックコメントを募集されています「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
第三条第二項に規定する医師の診断書の記載事項を定める省令」に関して、意見を述べさせていただきます。

1.総論

 「性同一性障害者の性別の取扱いに関する特例の法律(以下特例法と略す)」では、すでに第三条
第1項に5つの厳しい要件が定められています。
また特例法では性同一性障害者とは「そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」と定められています。
現在、日本における性同一性障害の診断と治療は、日本精神神経学会が定めた「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)」にそって運用され、精神科医または心理学の専門家により行われることになっています。こうした診断と治療は、治療基準に則り、最適にかつ慎重に行われています。診断と治療にたずさわる医師や心理学者は、自らの責任と医療者としての倫理観に基づき、国内治療基準だけでなく,DSM-MやICD-10などの国際基準、更には最新の理論などもふまえ診察を行っています。また、そのためガイドラインそのものも、時とともに改訂されてきています。
このように,性同一性障害の診断、治療を専門とする医師や心理学者は、科学的な観点で診察を行い、私たち当事者が社会生活を送る上でのサポートを行ってくださっています。
性同一性障害の診断は、当人の家庭環境や生活歴、現病歴はもとより、他の性別に適合させようとする意思、社会的な適合状況、染色体検査、ホルモン値検査、心理検査などさまざまなカウンセリングや検査を経てはじめて下されるものです。
こうしたことを考えれば、「性同一性障害」であると診断を行ったそれぞれの医師が、診断をする際にその診断の経緯と所見を記載すれば、それは科学的に客観性のある臨床像として個人の障害の状態を記述するものであり、厚生労働省が定める診断書にその記載細目まで細かく規定する必要はないと考えます。
現に、性同一性障害を理由とした名前の性別訂正の家事審判では、医師それぞれの書式で書かれた診断書が裁判所に提出され、客観的論証材料として審理が行われています。

以上のような観点から、性別変更の記載事項は
・ 住所、氏名及び生年月日
・ 診断書の作成年月日
・ 性同一性障害と診断したことに関する診断内容と所見

この3つの記載があれば充分であり、その他の項目は必要ないと考えます。

2.記載すべき内容

条文では 「診断書に記載すべき事項は次の事項とし、」とあります。
しかし、「記載<すべき>」 となると、必ず書かなければならないという意味になります。
住所、氏名はともかく

3 家庭環境、生活歴及び現病歴
4 生物学的な性別としての社会的な適合状況
5 心理的には生物学的な性別とは別の性別( 以下「他の性別」という) であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有すること並びにその判定の根拠
6 医療機関における受診歴並びに治療の経過及び結果
7 他の性別としての身体的及び社会的な適合状況

は、記載するにしてもその内容がどこまで書けるのかについては人により千差万別です。
当事者の中には性を転換する過程で、両親や家族との決別を余儀なくされた方もいます。
戸籍の性を隠し、性別の書かれた住民票を提出できずに正社員として就職できない人もいます。
また「医療機関における受診歴並びに治療の経過及び結果」に関しては、医療機関が少なく、健康保険が適用になっていない現状では、海外で治療をうけるなど受診歴は人により様々です。いずれもそれぞれの項目で記載が難しいことは言うまでもありません。
本来は、1で記載したようにこの項目は無くてもよいものと考えます。しかし、どうしても記載の必要があるということであれば、下記のように変更いただきたく要望いたします。

・「記載すべき事項」ではなく、「記載する事項」 とし、また
「項目3,4,5,6,7 については可能な範囲で記載することとする」
という一文を追加してください。
または、「必ず記載する事項」と「可能な範囲で記載する事項」に分けて列挙し、3,4,5,6,7 については「可能な範囲で記載する事項」としてください。

3.申立を妨げない

本省令に従って、この「記載事項」が詳細に記載されたとしても、それで性別が自動的に変更できるわけではなく、あくまでも家庭裁判所に申立ができるだけです。従ってこの診断書は家事審判官が申立を許可するかどうかの論証材料の一つとして使われることにはなりますが、この診断書が判断の全てではありません。
裁判官は必要と考えれば申立人により詳細な資料を要求するでしょうし、逆にもっと簡単な記載ですむ場合もあることでしょう。なにより今回、厚生労働省令で定めようとしている性別変更に関わる診断書は、それ自体が強制力を持つべき内容であってはならないと考えます。

従って、
・「本省令で定める記載内容の如何によって、家庭裁判所に家事審判を申し立てることを妨げるものではない」 という一文を追加してくださるよう要望いたします。

4.プライバシーの厳守

私たち、性同一性障害の当事者は、なによりもプライバシーを重要視しています。多くの当事者は「性同一性障害者」として生きたいわけではなく、普通の男性または女性として生活したいと考えています。世間の目は前よりはいくぶんましにはなったかのしれませんが、まだまだ偏見や差別が多く残されています。また一度戸籍の性がわかってしまった場合には「元男」あるいは「元女」というフィルターがどうしてもかかり、それでは普通にくらせることにはなりません。そのため、多くの当事者は、戸籍の性別がわかってしまうことを大変恐れています。
特例法は私たちの苦しみをすこしでも緩和するために制定されました。それが逆に本人を苦しめることになっては本末転倒です。そのため、「記載事項」が書かれる際に、その本人の戸籍性が明らかにされるような事態が起こってはなりません。このように、当事者のプライバシーが侵害される可能性のある項目に関しては、当事者の社会生活を保障するために最大限の配慮が必要と考えます。

そのために、
・「記載に当たっては当人や当人の関係者のプライバシーに充分配慮を行い、特に現在の戸籍の性別を周囲に告知せざるをえなくなるような状況を作り出さないことに格段の注意を必要とする」
という一文を加えてください。

5.診断書を記載する医師

性同一性障害の治療には様々な分野の医師が関与します。
精神科医に始まり泌尿器科医、産婦人科医、内分泌医、形成外科医など多岐にわたります。こうした方々は、それぞれの分野で診断を下し、それらが総合して性同一性障害としての診断が行われます。
省令案には「診断を行った医師は、診断書に記名押印又は署名しなければならない。」とありますが、それはこれに関わった医師全ての記名押印が必要なのか、それともこの中の誰かが代表して記名捺印すればよのかが不明です。更に診断を行った内の一人(例えば精神科医)が記載するとしても、特例法第二条では「そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」とあります。ここでいう「必要な知識及び経験を有する医師」とはどのような医師であるのかが、まず定かではありません。
次に「診断が一致している」 ということと「診断書を記載する」 ということの関係も不明確です。診断を行った医師2名がそれぞれ診断書を記載しなければならないのか、一つの診断書に両者の記名捺印があればよいのか、それともこの記載事項を記した診断書が必要なのは1名だけで、もう1名は単に「性同一性障害と診断した」と言うそのことが証明できるものが何かあればいいだけなのかがよくわかりません。全ての医師の記名捺印が必要とされると、特に海外で治療を受けた方などは記名や捺印の取得が難しい方もいます。

そのため、
・「この診断書は、治療を担当した医師一名が代表して記載するものとし、もう1名の医師については、申立人が性同一性障害であることを示す書面があればよい」
という文を追加してください。

「性同一性障害者の性別の取扱いの特例の法律」は、戸籍の性と異なる性で生活する私たち当事者を苦しみから救うために制定されました。しかしながら、第三条第1項で5つの厳しい要件が定められてしまいました。これににより、すでに性別適合手術までも終え、戸籍とは異なる性としてちゃんと社会生活を送っているにもかかわらず、あいかわらず性別変更ができずに苦しみが続く当事者が多く取り残されます。さらには、治療環境の整備も進まず、健康保険の適用も行われていません。今後制定される記載要項には更に詳しい内容が定められると思いますが、これもあわせ、この省令が特例法より更に高いハードルとなって、特例法の要件を満たしているにもかかわらず、記載事項を満足できないために性別変更ができなくなるというような方が出ることが無いよう、切に願います。
私たちは、これ以上泣く人、苦しむ人を増やしたくありません。
総ての国民の幸せを守る福祉国家としての日本国の威信と誇りと責任に、私たち性同一性障害をかかえる者の幸せを託くすことを最後に記して、ここに要望いたします。

以上、当会の評議会、全会一致の議決としてこの意見書を提出いたします。

平成16年3月19日

性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会をめざす会

代 表 山本 蘭
評議会議長 立華レイカ
評議会議員一同
 会津 里花、鮎川 ゆり、新井 友香、井出 夕貴、北林 和紗、児島 亜美、
 鈴木 小夜子、津田 徹哉、中山 裕美、鳴島 優理、橋本 佳美、樋口 卓子、
 日野 由美、百田 ローズマリー、平辻 みき、深井 理香、松村 比奈子、
 森田 菜々恵、山田 恵子


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