ホルモン療法に健康保険適用を

2018年6月30日

性同一性障害の手術療法が健康保険適用されたけれど・・・

2018年4月、私たちが長年切望してきた性同一性障害の手術療法に対し健康保険が適用されることとなりました。
従来、性別適合手術など性同一性障害に対する手術療法は100万円以上の費用がかかり、当事者の負担は大きなものがありました。また、健康保険が適用されないために治療が可能な医療機関がなかなか増えないという問題も抱えていました。このためアフターフォローが万全とはいえないタイなど諸外国で手術を受けたり、入院設備のない診療所(クリニック)で手術を受けるなどリスクの高い医療を選択せざるをない状況が続いていました。手術療法に対して健康保険が適用されたことは、こうした状況を打開する画期的な成果となるはずでした。

性同一性障害のホルモン療法は自由診療

一方ホルモン療法については従来のまま自由診療として残っています。
性同一性障害の治療では、精神療法終了後、身体的治療を望む場合は通常ホルモン療法に移行します。(ただし、FTMの方の場合は、この時乳房切除を同時または先行して行うことも可能です。)
ホルモン療法の治療を開始すると、MTFの場合は乳房・乳輪の肥大、体脂肪の増加などがおき、FTMの場合は髭などの体毛の増加、声の低減などがおこり、自分が本来所属すると認識する性別の体型に近づくことになります。これによって精神の安定化か図られ社会適合が進み、不可逆な治療である性別適合手術に対する可否の検討が行えるようになります。
さらにホルモン療法には、性腺の除去を伴う性別適合手術によって起こる身体に対する負担を軽減する意味合いもあります。
このように、手術の前にホルモン療法を行うことは必要な治療です。また、ホルモン療法はほぼその後生涯に渡って続けなければならないことからトータルの費用は高額にのぼります。当然、健康保険の適用が必要です。

混合診療は自由診療

しかし、現状ではホルモン療法は自由診療、手術療法は保険診療ということになります。残念ながら日本においては自由診療と保険診療を合わせて使うことは「混合診療」となり許されておらず、すべてが自由診療扱いとなってしまいます。
ということは、ホルモン治療に先行して行われる場合の乳房切除術を除き、ほとんどの手術が健康保険適用から外れてしまうことになります。
これでは、手術療法が健康保険適用になった意味がありません!!
混合診療を割けるために、一部当事者の間では、手術を受ける医療機関とホルモン療法法を受ける医療機関が違っていれば問題ないとか、手術前にホルモン療法を一定期間やめていれば大丈夫とか、ホルモン剤を海外などから自己調達すれ避けられるという話が流れていました。
しかし、GID(性同一性障害)学会から「性同一性障害診療における手術療法への保険適用」について という声明が出され、どのような形であれホルモン療法を事前に行っている場合には混合診療となり、手術療法が健康保険の適用とはならないこととなってしまいました。
この状況をこのまま放置はできません。ホルモン療法を早期に健康保険適用にし、混合診療でなくさなければなりません。

思春期の当事者に対する性ホルモンブロック治療も必要

また、出生時に割り当てられた性別とは異なる性別のホルモンを用いるクロスホルモン療法とは別に、15歳未満の当事者に対しては、まず第2次性徴を止めるためにホルモンブロック治療が行われます。
この治療は使用する薬剤のリュープリンの場合38,108円、スプレキュアMPの場合で27,448円と非常に高価で、第二次性徴が始まる10歳前後からクロスホルモンが可能となる15歳まで処方すると300万円を超える額になり、簡単には処方できるものではなくなっています。このため治療の開始が遅れ、第2次性徴によって起こる不可逆な変化を止めることができず、本人の精神状態や将来の社会適合に悪影響を及ぼすことにもつながります。
このように、ホルモンブロック製剤に対する健康保険適用も急がなくてはなりません。

厚生労働省および関連機関への要望

性同一性障害の当事者が、より安全・安心な治療を受けることができれば、当事者の円滑な社会適合を促進し、結果として日本の社会や財政への貢献となります。
混合診療を解消し、せっかく実現した手術療法の保険診療を実効性のあるものにするためは、なんとしてもホルモン療法を健康保険の適用としなければなりません。
厚生労働省をはじめ薬事・食品衛生審議会等関係機関におかれましては、一刻も早く性同一性障害のホルモン治療に対する健康保険を適用していただくよう強く要望いたします。