2023年(令和5年)10月25日、性同一性障害特例法の手術要件に関する意見表明

2023年11月18日

最高裁、全員一致での「手術要件一部違憲判決」

 2023年(令和5年)10月25日 、最高裁判所は性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下性同一性障害特例法)3条1項4号「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が憲法に違反すると15人の判事全員一致で判断をしました。これは戸籍上男性で、女性として社会生活を送るMTF当事者が、戸籍上の性別を女性に変更するよう求めた家事審判に対し行われたものでした。一方、同時に訴えられていた3条1項5号(性器の外観について定めた規定)については判断せず、審理を高裁に差し戻しました。
 最高裁は、規定は当事者に「強度な身体的侵襲」である手術を受けることを「甘受」するか、「性自認に従った法令上の性別の取り扱いを受ける」という重要な法的利益を放棄するかの「過酷な二者択一を迫るものになっている」と判断。医学の進展や社会情勢の変化により、規定は制約として過剰になっており、現時点で必要かつ合理的とはいえないとして憲法13条に違反すると結論付けました。また、三浦守、草野耕一、宇賀克也の3裁判官は、外観要件も手術を事実上強いる点で「憲法13条に反している」とし、申立人の性別変更を認めるべきだとの反対意見を付けました。

―この判決を重く受け止め、引き続き社会全体での対話と課題解決の議論を求めます。

 かつて私たちgid.jpは、2019年に性同一性障害特例法の手術要件を違憲とする申し立てが最高裁第二小法廷で合憲と判断された際、「手術要件撤廃は時期尚早であり、対話が必要」という見解を発表しました。それから4年が経過し、今回最高裁判所が手術要件の一部を違憲としたことに驚きを持ちつつ、社会的対話が進んだとする判断を大変重要なものと受け止めています。
 また、本判決に先だって静岡県浜松市在住の鈴木げんさん(戸籍上の性別は女性で、男性として社会生活を送るFTM当事者)による「戸籍上の性別変更をするために、生殖機能をなくす手術を受ける必要があるとする法律の規定が憲法に違反するか」が問われた家事審判がありました。ここでは、静岡家庭裁判所浜松支部(関口剛弘裁判長)が10月12日に、「規定は憲法に違反し無効」とする判断を示し、申立人側の訴えに基づき、手術を受けていなくても戸籍上の性別を女性から男性に変更することを認めました。

1. 性別適合手術は当事者が必要とするものであり、今後も安心安全に手術が受けられる環境整備が必要

 2019年の意見表明において、私たちは「性別適合手術は、強制断種手術ではない」という立場をとりました。現在においてもこの立場は変わりません。性同一性障害における性別適合手術は、本人の強い希望によってのみ行われており、現在もその手術のほとんどは自費診療です。私たちは身体に違和を持ち、自らの意思で手術を受けています。そもそも性別適合手術は、身体に対して強い違和感があり、それを解消するためのものです。精神科医が患者を診察して、本人が強く希望し、性別に対する違和感からくる苦痛・苦悩を取り除くためには手術をするしかないと判断して行われるものです。特例法の要件を満たすための手術ではありません。
 ちなみに、2018年4月から性別適合手術を含む手術療法は健康保険の適用となりました。しかしホルモン療法が保険適用となっていないため、ホルモン療法を行っている当事者の手術は混合診療と判断され、自費診療となります。性別適合手術後にはホルモン療法が必須となるとの理由で保険適用での性別適合手術は行われていないのが実情です。
 このような中、当事者の多くは特例法の要件に手術要件の有無にかかわらず手術を希望します。今回の判断が手術を希望する当事者を阻むことにならぬよう、強く要望します。

2. 特例法が制定された歴史も踏まえ、残された課題の改善を求める

 性同一性障害特例法の成立は当事者の悲願から果たされたものであり、これまで当事者に生きる希望を与えてきました。特例法が施行された2004年から2022年までの19年間で、戸籍上の性別を変更した人数は11,919人にのぼります。
 特例法には今回違憲とされた手術要件のほかにも、私たちが一貫して改正を求めている第3条1項3号(現に未成年の子がいないこと)などについても議論の余地が残されています。来るべき性同一性障害特例法改正議論では、これらの課題解決も念頭に進められることを望みます。

3. 結論としてー私たちが呼びかけ、取り組んでいくこと

 2019年最高裁判決を受けた私たちの声明は、「私たちは、社会の一員です。当事者の主張がわがままになってはなりません。この問題は、みなさんで大いに議論をし、納得をした上で進めようではありませんか。」という言葉で結びました。
 その思いは今も変わりません。私たちは社会の一員であり、社会全体の納得と理解を深めるために働きかけるべきだと考えています。
 今回の判決を踏まえ、今後もその立場を堅持し、新たに策定された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」なども足がかりに活動を続けていく所存です。

2023年11月 運営委員一同